味覚の科学
化学的な背景、味の幻想
私たちは三大栄養素である炭水化物(糖やでんぷんを含む)、
たんぱく質、脂肪からカロリーを得ています。
人は、味と匂いからこれらを感知していますが、
そのメカニズムは「味」の感じ方と「匂い」の感じ方を区別して考えると説明できます。
食べ物や飲み物が、口の中に入ると、それらは舌や口蓋にある味覚器官に接触します。
ここで生み出される感覚は、甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦いといったものです。
同時に食べ物や飲み物の揮発成分が口や鼻の空洞を通って上昇し、
最終的に眼球の直下にある嗅覚器官に到達します。
ここで感知した様々な嗅感覚は、物を食べる時の感覚に深く関わっています。
物を食べているとき、食べ物の味を感じながら、その匂いも嗅いでいるのはそうしたことなのです。
その複合的な感覚は「フレーバー(風味)」と呼ばれ、知覚的には口の中で感じています。
鼻よりもむしろ口で感じるのは、それが触覚によってもたらされているからです。
味覚は味蕾に集まるのではなく、むしろ食べ物や飲み物が口の中で触れる場所で感じられます。
味蕾はある特定の位置にしかありませんが、物を飲んだり、食べたりしている間、
味覚は口の内面全体から発しているかのようです。
脳が味覚を感知するのに、触覚を用いるため、このようなことが起こるのです。
(エール大学医学部外科、タッチ・リンダ・M・バルトシュック著「味わいの感覚」より)
味覚と嗅覚の混同
私たちはよく食べ物や飲み物の味わいについて語ることがありますが、
実はこの味わいの感覚のほとんどは嗅覚によってもたらされているのです。
食べ物を感じる様子
味と香りの組み合わせをフレーバー(風味)と呼んでいます。
臨床的な味覚病理学では、味覚のシステムがどのように働くかについて盛んに研究されています。
生きている人間の味蕾を数える画期的な方法の開発により、
解剖学上の違いと機能的側面から見た違いを結びつけて考えるようになりました。
味覚の解剖
舌はさまざまな乳頭突起に覆われていて、でこぼこになっています。
最も数が多いはの繊維状乳頭突起ですが、それには味蕾がありません。
舌の両脇と味覚のセンサーである舌先には、キノコ状乳頭突起が密集しています。
たくさんのひだからなる葉状乳頭突起は、舌の後方や付け根に見られます。
また後方には、円状の壁状乳頭突起もあります。
遺伝学的な味覚機能の違い
1931年にフォックスは、偶然に驚くような発見をしました。
彼は研究室でフェルニチオ尿素(PTC)の合成をしていましたが、
その一部を空気中に吹き飛ばしてしまったのです。
フォックスは何も感じなかったのに、彼の同僚は「なんという苦さだ」と言いました。
この発見がきっかけとなり、遺伝学者たちは、「味盲」についての研究を始めました。
様々な研究の結果、味覚の個人差は優性対立遺伝子Tと劣性対立遺伝子tの組み合わせによって
生み出されることがわかりました。
優性対立遺伝子Tを持つ個人TTとTtは比較的多くの味に敏感に反応しますが、
劣性対立遺伝子tを2つ持つ個人ttは、彼らに比べ味覚反応に乏しいという結果が出たのです。
興味深いのは、tt群はグループ内に測定値の差がほとんどないのに対し、
TTとTt群はグループ内にかなりの差が生じた点です。
これは、ずば抜けた味覚を持つ人がいることを証明しています。
注:対立形質を支配する遺伝子。染色体上に同じ遺伝子座を占め、互いに優劣関係にある。
スーパーテイスターの能力
何をもってスーパーテイスター(TT)は、普通のテイスター(Tt)やノンテイスター
(tt)と異なるのでしょう。
ミラー氏とリーディー氏は新しい視点を採り入れました。2人はメチレンブルーを用いて味蕾を染め、
その数を数えることに成功したのです。
結果、テイスターはノンテイスターよりも多くの味蕾を持っていることを突き止め、
また、味蕾を多く持つ被験者ほど、辛味などの強い刺激に敏感であることもわかりました。
味蕾には、痛みを感じる繊維が付随しているため、スーパーテイスターは刺激の強い味には敏感に反応します。
この研究の最近の結果では、スーパーテイスターは数多くの味蕾を持ち、
ノンテイスターは少ないことがわかりました。
この感覚器数の違いはとても大きく、たとえば、1平方センチメートルの味蕾の平均数を調べてみると、
ノンテイスターは96、普通のテイスターは184、スーパーテイスターでは425でした。
スーパーテイスターのキノコ状乳頭突起は小さめで、
ノンテイスターのキノコ状乳頭突起には見られないリング状の組織がその回りにあります。
これらの解剖学的なデータからも味覚反応の優劣は嗜好の違いよりも、遺伝子学的要素の影響が多いことがわかります。
スーパーテイスターとエチルアルコール
アルコール中毒は味盲と結びついていることがわかり、アルコールの影響はとくに興味深いものとなっています。
スーパーテイスターや普通のテイスターにとって、アルコールの刺激は、あまり心地よいものではありません。
これは、彼らがアルコール中毒からある程度守られていることを示しています。
Age 年齢
年をとっても味覚が衰えないことは、私たちにとって大変よいニュースです。
しかし、残念なことに、嗅覚は年齢とともに衰えてしまいます。
ショ糖の甘さに対する温度の影響
ショ糖の甘さは、比較的低濃度の場合、温度の影響を極めて大きく受けます。
私たちのデータによれば、ショ糖の甘さは、温度が4℃(ほぼ冷蔵庫の温度)から
36℃(ほぼ人間の体温)に上昇すると、40%も増加します。
私たちは温度が高くなるほど甘さを感じるようになるのです。
例えば、コーヒーに砂糖をスプーン2杯入れた低濃度の状態では、
温度が4℃から36℃まで上昇すると、甘味は92%(甘味がほぼ2倍)も増加します。
なぜ私たちは甘味が好きなのか?
砂糖は天然の甘味を代表する刺激物です。砂糖を好むことは哺乳動物に共通しています。
人間の甘味に対する反応は、発育の初期段階にも見ることができます。
ド・スノー氏(1937年)は胎児が羊水を飲むという事実に興味を持ちました。
彼は羊水の中にサッカリンを入れることで、胎児により多くの羊水を飲ませることに成功しました。
この素晴らしい発見は、生まれる前から味覚の知覚器官が機能していることを示しています。
今日では、他の種においても広範な研究が行なわれています。
この事実は、人間は生まれる前から甘味を好むということも指し示しています。
人間の甘味システムは、砂糖のように私たちに有益な糖分ほど濃く感じ取り、
そうでないものは、薄く感じるように発達したのでしょうか?
生物学的に最も重要な砂糖の分子はグルコースです。
この分子は身体にとって重要なエネルギー源であり、唯一、脳にまで使われるエネルギー源でもあります。













