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2017/09/04

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ワインが苦手な人でも楽しめる!? 上品な味わいが魅力の貴腐ワイン

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「腐る」は、食べ物には御法度。しかし、「貴く腐る」と書いて「貴腐」と呼ばれるワインがあります。

稀少かつ、比類ない味わいにして、かつては王侯貴族のみしか賞玩できなかった至極のワイン——貴腐ワインとは、どんな飲み物なのでしょうか?

至高の酒「貴腐ワイン」

貴腐ワイン――かつて、王侯貴族でさえ憧れた甘美な極甘口ワインは、ぶどう果皮に貴腐菌と呼ばれるボトリティス・シネレアが付着する偶然の作用によってのみ生れます。

奇跡のワインを生み出す条件を整えた土地は、世界でもごくわずか。ゆえに、その珠玉の味わいは、ひと雫が宝石に喩えられるほど貴重なものでした。

貴く腐ると、甘くなる

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「貴腐」の構造

貴腐ワインは、ボトリティス・シネレアという菌の一種が付着したぶどうから造られます。

しかし、このボトリティス・シネレア菌は、いくつもの条件が重ならないと発生せず、また発生しても不向きな環境であれば、理想的な効果を生み出しません。

第一の条件は、ぶどうの収穫期に湿度が高まること。たとえば、朝霧の出る土地は、この条件を満たします。

しかし、ただ霧が発生するだけではいけません。昼頃からは強い陽光が降り注ぎ、かつ風通しが良すぎないことが第二の条件となります。ボトリティス・シネレア菌にとっては、高温多湿が理想的な繁殖環境なのです。

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通常、果実に菌が付着することは好ましいことではありませんが、ボトリティス・シネレア菌には、果皮を破らずに果肉の水分だけを排出するという作用があるため、果汁の糖度と粘度が飛躍的に高まります。

しかし、見た目は、カビのようなものに覆われた干しぶどう——まるで腐っているようだ、というのが、「腐」という文字を使う名前の由来。しかし、果汁を絞れば、あたかも蜜のように濃厚で高貴な味わい、ゆえに「貴」なのです。

貴腐ワインの産地

貴腐ワインは、条件を満たしたテロワールと、たまたま付着する菌の偶然の作用がなければ、生み出されません。このハプニングが起こり得る土地は、世界的にもきわめて稀少です。

また、貴腐ワインは、通常一本の樹からグラス一杯分しか収穫できない——といわれます。しかも、菌のつきが悪ければそれさえ確保できないこともしばしば。今年は貴腐ワインが造れなかった……というヴィンテージも、あり得るのです。

ソーテルヌを生み出すフランスはボルドーのソーテルヌ地区、アスー・エッセンシアを生み出すハンガリーのトカイ地方、トロッケンベーレンアウスレーゼを生み出すドイツ南部のワイン生産地区は、世界三大貴腐ワインの産地とされ、最高峰の賛辞をほしいままにしています。これらはいずれも、かつては王侯貴族しか口にすることができない、極めて貴重なワインでした。太陽王と呼ばれたフランスのルイ14世も、ハンガリーのアスー・エッセンシアを飲んで「ワインの王にして、王のためのワイン」と讃えています。

古代〜中世の西欧人にとって、最も貴重な酒は、実はワインではありませんでした。それは、蜂蜜を発酵させて造った「蜜酒」でした。砂糖が普及していなかった時代、稀少な蜂蜜を用いて醸造した極甘の酒こそ、酒の王に相応しい味わいと考えられたのです。

そして、いにしえの杜氏たちは考えました。「どうにかして、ぶどうから蜜酒の味わいを造りだすことはできないものか」と。甘口ワインは、こうして研鑽されていき、やがてボトリティス・シネレア菌の作用を利用する貴腐の醸造法に行き着いたのです。

他にも、イタリアやニューワールドにも、ボトリティス・シネレア菌が発生し得る場所があり、チャンスに恵まれたヴィンテージには、優れた貴腐ワインが造られています。近年では、ミクロクリマの研究が進み、さらに色々な場所で貴腐ワインの醸造が試みられるようになりました。

日本でも、1975年に山梨県のサントリーのワイナリーでの成功を皮切りに、長野県や北海道などで優れた貴腐ワインが造られています。

パワーが宿る魅惑のワイン

かつては、貴腐ワインには、不思議な力が宿っている——と考えられました。実際、甘いものが貴重で、ほとんど口にすることができなかった時代、こうしたワインの飲むことで血糖値があがれば、あたかも栄養ドリンクや高貴薬を飲んだかのような効果があったことでしょう。

戦前の日本でも、貴腐ワインは高価なカンフル剤のような使われ方をしていました。かつての天皇陛下の側近、特に明治維新に勲功のあった貴族を「元勲」といいますが、老齢になった元勲が体調を崩し、危篤になると、天皇陛下からお見舞いとして貴腐ワインが贈られる、という慣習がありました。

お年寄りのことですから、ちょっとした季節の変わり目にはたびたび体調を崩します。その度に、新聞などでは「元勲危篤」と報じられ、人びとは「またかい」などと思ったそうですが、「天皇陛下から御見舞のぶどう酒がご下賜された」と報じられると、「ああ、あの元勲もとうとういけなくなった」と感じたそうです。

つまり裏を返せば、貴腐ワインには危篤の病人をもこの世に呼び戻す力がある、と信じられていたのでしょう。

もし、貴腐ワインを飲む機会に恵まれたら……

「私はワイナリーに生まれ、城に住み、ワインの仕事をずっと続けてきたけれど、世界三大貴腐ワインが出されるような晩餐会には一度も招かれたことがない。そんな贅沢な食事を、一度体験してみたいよ。」

ある伯爵から、そんな話を聞いたことがあります。つまり貴腐ワインは、それほど貴重、ということができるでしょう。

デザートワインとして秀逸なことはいうまでもありませんが、フォアグラや濃厚なチーズに合わせても素晴らしいマリアージュとなります。これは、ただ甘いだけではなく、甘さと同じレヴェルの酸味や、旨味があるからに他なりません。味わいが高いレヴェルで均衡し、円熟した旨味を輝かせるのです。

リーデルのハンドメイドグラス、<ソムリエシリーズ>『ソーテルヌ』は、貴腐ワインの甘さだけでなく、酸や旨味がバランスよく感じられる構造になっています。また、マシンメイドのグラスでは<ヴィノムシリーズ>『デザートワイン』がおすすめです。

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もし、貴重な貴腐ワインを飲む機会に恵まれたら、是非ともその真髄が味わい尽せるグラスを用い、至福の極地へと誘われてみてはいかがでしょうか。

  • 髙山 宗東muneharutakayama
  • ワインコラムニスト・歴史家・考証家・有職点前(中世風茶礼)家元

専門は近世史と有職故実。歴史的観点を踏まえてワインのコラムなどを執筆。
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