ワイングラスの名門ブランド - RIEDEL(リーデル)
TOP > ENJOY WINE > Column > ボルドーワイン物語 ボルドーが世界に誇るワイン産地となった理由とは?

2016/12/22

Column

ボルドーワイン物語 ボルドーが世界に誇るワイン産地となった理由とは?

bordeaux

ワイン産地の代名詞——といっても過言ではない、フランスの銘醸地ボルドー。五大シャトーをはじめとする数多の名ワインを生み出し、また国際的に広まったアッサンブラージュ技法「ボルドースタイル」の故郷でもあります。何ゆえにボルドーは、「偉大な産地」となり得たのでしょうか?

古くからワイン貿易が盛んだったボルドー

ボルドーは、フランス南西部ジロンド県の県都。ピレネーに起源をもつガロンヌ河と、東方から流れてくるドルドーニュ河が合流し、ジロンヌ河となってビスケー湾から大西洋に注ぐ交通の要衝です。

その地の利を活かし、盛んなワイン貿易を展開させたことが、ボルドーの発展につながりました。

歴史がボルドーを世界へと羽ばたかせた

history

「ワインは水代わり」の理由

ガロンヌ河およびジロンド河左岸は砂利質、ドルドーニュ河右岸は粘度質、ガロンヌ河とドルドーニュ河に挟まれた地域は粘度石灰質と、おおまかに見ても多彩なテロワールを持つこの地域では、紀元前2500年から葡萄が栽培されていたことが確認されています。

かつて、中央ヨーロッパにおいてワインは、必要欠くべからざる飲料でした。

何故なら、基本的に石灰質の岩盤の上に展開する中央ヨーロッパでは、多くの場合井戸水は、石灰の影響が強すぎて飲用に適しません。人びとは、井戸を掘る代わりにぶどうの樹を植え、その果実を絞ってワインに醸し、飲料水を確保したのです。ゆえに「ワインは水代わり」というわけ。したがってワインは、その土地土地で消費されるのが基本でした。

しかし、ボルドー地方では、少し事情が異なります。

ボルドー地方がイギリスだった頃
oldpicture

中世、現在のボルドー地方は「アキテーヌ」と呼ばれていました。1152年、領主であるアキテーヌ公ギョーム十世の息女アリエノールは、後のイギリス王ヘンリー二世に嫁ぎました。やがてアキテーヌ公が亡くなると、アリエノールは遺産としてアキテーヌ地方を受け継ぎます。こうした経緯からアキテーヌは、中世の数百年間、英国領となりました。

その間、イギリス王の庇護もあって多くのアキテーヌワインが英国へと運ばれました。当時、寒冷なイギリスでは、ワインはほとんど造られていなかったのです。これが他のヨーロッパ諸国に先がけて、ワイン貿易というビジネススタイルを確立させる結果となりました。ワイン販売を仲介するネゴシアンの活躍も、こうした背景に拠るものです。

さて、アキテーヌ地方のワインが海外へと運ばれる際、積み出し港となったのがボルドーでした。そこでアキテーヌ地方のさまざまな地域から集められたワインは、積み出し都市の名をとって「ボルドーワイン」と呼称されたのです。本来一都市の名前に過ぎない「ボルドー」が、その周辺の葡萄栽培地域一帯を指し、またワインの世界においてブランド的名称となった起源は、ここに発しています。

市場リサーチが生んだ「美味しいワイン」
barrels

「バランスが良い」「飲みやすい」というボルドーワインのイメージも、このような歴史と深く関わっています。いち早いワインの商品化は、他に先駆けて「消費者ニーズに合わせたワイン造り」を促しました。消費者にどのようなワインが好まれるかというリサーチに即して、多くの人が美味しいと思う、市場に受け入れられやすいワイン造りがおこなわれたのです。

近現代になって、他のワイン生産地も輸出を重視するようになると、ボルドー地方はワインビジネスのプロトタイプとして注目されました。かくして、飲みやすく繊細な「ボルドータイプ」のワインが、世界中に広まっていったのです。

伝統に保証されたクオリティと多様な個性——ボルドーワインの魅力

 bordeauxwine

カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、メルロ(赤用品種)、セミヨン、ソーヴィニョン・ブラン、ミュスカデ(白用品種)など、複数のぶどう品種をアッサンブラージュするのが、ボルドーワインの特徴です。こうした醸造方法は、安定したクオリティのワインを供給するために大変有効です。

また、酸が強調されがちなカベルネ・ソーヴィニョンのベースにメルロを入れることによってまろやかさを引き出したり、反対にややもすれば柔らかすぎて平坦なメルロのベースにカベルネ・ソーヴィニョンを加えて力強さを与えたり……という具合に、アッサンブラージュによって、本来相反する美点の融合や、突出しがちな個性の緩和を図るにも有効です。ボルドーワインが、初心者にも、経験豊富な飲み手にも受け入れられるのは、こうした配慮の賜物といえるでしょう。

とはいえ、繊細さの名の下に画一化するわけでは決してありません。むしろ、豊穣なテロワールから生み出される複数の葡萄を用いて造られるワインのバリエーションは、アッサンブラージュによって星の数ほどにもふくれあがります。

多様性こそボルドーワイン最大の魅力。長い伝統に保証されたクオリティと、多彩な個性こそ、ボルドーワインが誰からも愛されるゆえんといえるでしょう。

Author: 高山 宗東

  • 髙山 宗東muneharutakayama
  • ワインコラムニスト・歴史家・考証家・有職点前(中世風茶礼)家元

専門は近世史と有職故実。歴史的観点を踏まえてワインのコラムなどを執筆。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pinterest
TOPへ戻る