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2014/12/05

Column

【ワイナート連載後記】日本古来の山ブドウにこだわる白山ワイナリー

むかし、この国は深い森におおわれ
そこには太古からの神々がすんでいた

映画『もののけ姫』冒頭のテロップ、そして本編の背景画に描かれているように、かつてこの国も深い森に覆われていました。
もしもその当時の晩秋、天空から日本列島を見下ろせば、紅葉で日本列島が北から南へと赤く染まっていく様を見ることができたはずです。さぞかし雄大なグラデーションだったのではないでしょうか。

山ブドウも、そんな日本列島を赤く染めた植物のひとつです。

山ブドウ研究で知られる澤登晴雄氏は「ワイン&山ブドウ 源流考」にこう記しています。

「山ブドウというのは、日本の風土に何千、あるいは何万年と生き続けた、私たちの ”先住民” なんです」

神話にも登場する山ブドウ

日本の国生み神話に登場するイザナキとイザナミ。国生みを終えたイザナミは、石、土、海、風、山などの神々を産み落としてゆきますが、火の神を産んだ時、その火に焼かれ亡くなります。たいそう嘆き悲しんだイザナキは、イザナミに会うため黄泉の国を訪れ、一緒に帰るようイザナミに伝えます。イザナミは「一緒に帰りたいが、すでに黄泉の国のものを食べてしまったため帰ることができない。黄泉の国の神に頼んでみるから、その間は私を見ないように」といいますが、誘惑に負けてイザナキは火を灯してイザナミを見てしまう(このあたり「鶴の恩返し」のような展開ですね)ところがイザナキが目にしたのは、腐敗し変わり果てた妻の姿でした。驚いたイザナキは逃げ出しますが、約束を破ったことに怒ったイザナミは手下に追わせます。イザナキが投げつけた黒いつるでできた髪飾りからヤマカズラ(山ブドウ)が生え、追っ手がその実を食べている間にイザナキは逃げて行きます。

こんな神話にもでてくる山ブドウ。黄泉の国からの追っ手の目をくらませるほど、魅力的な味わいだったのでしょう。

山ブドウについて

前述の「ワイン&山ブドウ 源流考」によれば、明治20年代にフランス人のコワニェティ夫人という人が来日。日本のいたるところに実っている山ブドウを見て驚いたそうです。ワインを作ってみても案外悪くない。夫人は山ブドウをフランスに持ち帰りますが、残念ながら、かの地ではうまく育ちませんでした。澤登氏によれば、「雨が多い酸性土壌に適した山ブドウが、雨の少ないヨーロッパのアルカリ土壌に合わなかっただけ」のこと。結果は残念でしたが、フランス政府は夫人の功績を称え、山ブドウの学名を「ヴィティス・コワニェティ」と名付けました。

現在日本のワイナリーで造られる山ブドウにも、大きく2つの系統があります。ひとつは上述した、日本内地で太古から自生していたとされる「コワニェティ」。もうひとつは、アムール川一帯に自生していた東北アジア原生種の「ヴィティス・アムレンジス」系。
「アムレンジス系」の特徴は、やはり寒さにとても強いこと。北海道の十勝ワインさんなどは「アムレンジス系山ブドウ」の代表だそうです。

原生山ブドウは小粒でスカスカ

写真にもあるように、山ブドウの房は総じてブドウの実がまばらについてスカスカです。収穫量は減ってしまいますが、ひと粒ごとの凝縮度は高まり、風通しが良いことで病害にも侵されにくくなります。

もちろん、果実味だけでなく、山ブドウのひとつの特徴である野趣溢れる酸味もまた、しっかりと凝縮されています。今回のターゲット「白山 山ぶどうワイン 樽 2007」も、想像以上に厳しい酸味でした。

かつて「アシッド・バンパー」とも呼ばれる <ソムリエ> ブルゴーニュ・グラン・クリュの外側にフレアした独特の形状をした飲み口。偉大なブルゴーニュ・ピノ・ノワールのしっかりとした酸味を和らげて感じさせてくれるはずのこの形状でさえ、完全には制御できないほどの豊かな酸味。7年の熟成を経てもまだ、ビシビシ感じるほどの酸味は、元旦の朝に飲めば、全身を清めてくれるのではないかと思われるほど、峻厳なものでした。

白山ワイナリーの谷口さんが試飲している模様です。ボウル底部に残るワインの色合いをご覧いただくと、山ブドウの色素の濃さがお分かり頂けると思います。

近年では、山ぶどう50%、マスカット・ベーリーA50%のブレンドもあり、こちらはMBAのチャーミングな果実味が厳しい酸味に加わって、だいぶ穏やかになっています。

試飲中には、キイロスズメバチが室内に入ってきたり、畑ではぶどうの葉にのったカエルを発見したりと、極力自然を生かした栽培を感じます。

醸造所から道を挟んで向かい側に広がる小さな畑で、山ブドウについて語る谷口氏。

東京の大学を出て、広告代理店での経験を経てワイン造りに至る経歴は異色ですが、「試行錯誤しています」と語る穏やかな雰囲気に秘められた、日本の原生ブドウへの強いこだわりが感じられました。

 

2014年の締めくくり、そして新年を迎えるワインとして、かつては滋養強壮のためにも飲まれたという、日本原生の山ブドウから生まれたワインというのもよろしいかもしれませんね。

ここ数日、だいぶ寒さが増してきました。
みなさま、ぜひ健やかな年末年始をお迎えください。

庄司大輔

今回試飲したワインもこちらで購入できます

>山ぶどうワインの白山ワイナリー
http://www.yamabudou.co.jp/index.php

参考文献:「ワイン&山ブドウ源流考」澤登晴雄著(ふたばらいふ新書)

ワイナート

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この記事は2014年12月5日(金)発売「ワイナート 第77号」に掲載されました。
こちらからPDFファイルをダウンロードしていただけます。
ワイナート PDF(495KB)

  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2001年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラス・エデュケイター」となる。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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