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2015/06/05

Column

<ヴェリタス>のニューワールド&オールドワールド・ピノ・ノワールグラスで感じる「香大農R-1」

ワイナートの「日本ワインでグラスマッチング」も、おかげさまで10回を迎えました。
今回訪問したのは「さぬきワイナリー」、ターゲットは「香大農R-1」。
「かだいのうアールいち」と読みます。

沖縄の奄美地方に自生するリュウキュウガネブを母親に、マスカット・オブ・アレキサンドリアを父親にして育種されたブドウで、香川大学によって開発された品種であることからの命名です。

目次

  • 1 生産者の意図を推し量るポイントは「ワインが注がれたグラス」
  • 2 選ばれた3つのグラスの不思議
  • 3 「ピノ・ノワールグラス」と「オークドシャルドネ・グラス」の違い
  • 4 「オールドワールド」と「ニューワールド」
  • 5 「オールドワールド・ピノ・ノワール」と「ニューワールド・ピノ・ノワール」の違い
  • 6 希少な「ソヴァジョーヌ・サヴルーズ2014」を2名様にプレゼント!

1. 生産者の意図を推し量るポイントは「ワインが注がれたグラス」

10回を迎えるこのコラムですが、ボトルとグラスの写真にはある法則がひそんでいます。それは、ワインが注がれるグラス。
ワークショップ(ワインにマッチしたグラス形状を選定するためのテイスティング)の終盤に残るグラスは、どれも甲乙つけがたいグラスばかり。限られた時間の中で、生産者がただひとつのグラスに絞りきれないこともあります。そんな時は、3つのグラス全てにワインが注がれます。

逆に「これ、いいですね」と、生産者が「このグラスで飲んで欲しい」という筆頭格のグラスが選出できた回には、そのグラスのみにワインが注がれています。実は「さぬきワイナリー」さんでのワークショップは想定以上に短時間でグラスが選定されました。
醸造責任者の阿佐さんのワインのイメージと、オールドワールド・ピノ・ノワールグラスから感じた印象がピタリ重なったのは、そばで見ている僕にも感じられました。

2. 選ばれた3つのグラスの不思議

今回のワークショップでは、<ヴェリタス>のクープグラスを除いた全9種類のグラスを用意して行われました。選ばれた3つのグラスで面白かった点がふたつ。

ひとつは、「ピノ・ノワールグラス」と「オークド・シャルドネグラス」が一緒に選ばれたこと。もうひとつは、「ニューワールド」ではなく「オールドワールド」が選ばれたこと。

3.「ピノ・ノワールグラス」と「オークドシャルドネ・グラス」の違い

グラス・テイスティング・セミナーでは、ピノ・ノワールワインに対極的な機能を有するグラスとして「オールドワールド・ピノ・ノワールグラス」と「オークドシャルドネグラス」でワインを比較します。このふたつのグラス形状は、元となる卵型は全く同じで、飲み口のカット位置が2cmほど違うだけという関係。

卵形の常として、カットの位置が高ければすぼまりが強く、低くなればなるほど、すぼまりは弱く飲み口は大きくなります。フランス・ブルゴーニュ産のピノ・ノワールワインをこのふたつのグラスで飲み比べると、「ピノ・ノワールグラス」の方が、舌上でのワインの流れはより細く直線的に、舌の中央付近を流れるのに対して、「オークド・シャルドネグラス」では、ワインは舌上で、特に舌先からもっと奥に入った中程あたりでとてもワイドに広がるのです。このことも手伝ってか、「オークド・シャルドネ」で飲むブルゴーニュ・ルージュは、おおよそ酸味が必要以上に強まり、タンニンの肌理は粗く攻撃的な印象になります。

ピノ・ノワールワインにとっては対極的な機能を発揮するこのふたつのグラスが、ワークショップ最終の3グラスに含まれることは、僕たちグラス・エデュケイターにとっては違和感を覚えるのですが、そこが、実際に飲んでみないとわからないグラスの奥深い世界。
濃厚な果実味と穏やかなタンニンが共存する「ソヴァジョーヌ・サヴルーズ」だからこそ、双方のグラスで魅力的な表情を楽しめるのではないでしょうか。

4.「オールドワールド」と「ニューワールド」

ワインを飲んでいくとけっこう早い段階で出会うこの言葉「オールドワールド」「ニューワールド」。ものすごく単純化してしまうと、「ワイン産地」を指す場合と「ワイン自体のスタイル」を指す場合の2パターンがあって、これを把握することでワインの理解、そしてグラスチョイスの楽しみがぐっと深まります。

詳細はワインの専門家による解説をご覧いただくのがよいですが、簡単にまとめると下記のような区分けとなっています。

【産地としてのオールドワールド】

フランス、イタリア、ドイツなど、ワイン作りの歴史が長い伝統的なワイン産地。

【産地としてのニューワールド】

アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、上記の旧世界の国々に比べてワイン作りの歴史が浅い国など。伝統にとらわれない革新的なワイン作りも見られます。

最近は「産地=ワインのスタイル」という図式が崩れ始めているようで、産地としては「ニューワールド」に分類されながらも、ワイン自体のスタイルは「オールドワールド(クラシカル)」と評されるワインも増えてきました。

【ワインのスタイルとしての「ニューワールド」「オールドワールド」】

<ヴェリタスシリーズ> での「ニューワールド」「オールドワールド」の種別は、上記の産地による区別ではなく、ワインのスタイルに応じて使い分けていただくと良いと思います。「ニューワールド」「オールドワールド」という言葉から想像しにくい場合は、それぞれ「モダン」「クラシカル」という言葉に置き換えてみるとよいでしょう。

果実味をしっかり感じられて、タンニンもより穏やかな仕上がりとなる傾向の「モダンなつくりのワイン」と、果実味の充実よりも骨格を構成するようなタンニンや酸味をしっかりと感じられる「クラシカルなつくりのワイン」。まさに、軽快でノリの良い現代的なPOPSと、ある程度身構えて聞くことの多い重厚で多層的なクラシック音楽の違いにも似ているかもしれません。

5.「オールドワールド・ピノ・ノワール」と「ニューワールド・ピノ・ノワール」の違い

「オールドワールド・ピノ・ノワール」と「オークド・シャルドネ」の違いはカット位置約2cmの違いでしたが、この新旧ふたつの「ピノ・ノワールグラス」の違いはさらに小さい1cmの違い。とは言へ、違いはその距離だけではなく、形状にも及んでいます。
従来の「オールドワールド・ピノ・ノワール」の飲み口に、1cmの煙突型が加えられたのが「ニューワールド・ピノ・ノワールグラス」です。
この1cmと形状の違いが、同じワインの印象を驚くほど変えてしまうのは、まさにグラスの不思議と言えるでしょう。

この煙突型の形状が加わることによって、同じワインを2つのグラスで飲み比べた時に、相対的に下記のような傾向を感じています(庄司個人の印象です)。

「ニューワールド・ピノ・ノワール」

・果実香は華美なボリューム感を抑え、よりエレガントに
・相対的に果実香以外の香りが感じやすくなる
・味わいも、果実味はより抑制的になり、柔らかいテクスチャーを感じやすく

「オールドワールド・ピノ・ノワール」

「ニューワールド・ピノ・ノワール」に比べ、果実香や果実味にある程度のボリューム感がしっかりと感じられ、それにより樽やスパイスの香り、味わいの面ではタンニンや酸とのバランス感が変わってくる。

この点を踏まえて、誌面で短くまとめられた各グラスへの阿佐さんのコメントを読み返してみると、「なるほど」となるのです。

まず筆頭格に選ばれた「オールドワールド・ピノ・ノワール」のコメントの冒頭にあるように、このグラス形状は、多くの赤ワインの果実味を赤系に照らし出します。もともと紫系果実の香りをもつワインも、このグラスで感じると香りが明るく、紫系に赤系の色感が感じられるようになるのです。不思議です。

味わいの面では「果実味に包まれる柔らかいタンニン」とあります。
「ニューワールド・ピノ・ノワール」に比べてワインを口に含む量が多いため、果実味をよりしっかりと感じやすかったことが、穏やかなタンニンをより一層優しく感じられたのかもしれません。

一方で「ニューワールド・ピノ・ノワール」では、果実系以外の「ヨーグルト的」と表現されたコメントが印象的です。
果実香が抑えられることで、それ以外の表情が顔を出しやすくなるのでしょう。また、「甘酸っぱい」と感じた理由を推測すると、煙突型の飲み口によって口に含むワイン量が抑えられ、流れの幅がより細く絞られたため、果実味の印象が若干下がることで酸味が浮き上がってきたのかもしれません。
ここでの「柔らかい」は、タンニンや酸が果実味に包み込まれるという「オールドワールド・ピノ・ノワール」で感じたそれとは異なり、煙突型の飲み口による質感の側面での柔らかさ、なのではと個人的に感じました。

6. 希少な「ソヴァジョーヌ・サヴルーズ2014」を2名様にプレゼント!

僕がワイナリーを訪れた時には、すでに「ソヴァジョーヌ・サヴルーズ2014」のフルボトルは終売。ハーフボトルが数本売店に並んでいるのみでした。このユニークで貴重なワインを2本購入してまいりました。
ワイナリーから発送していただき、事務所のセラーで保管してあります。

ブログ読者の方の中から2名様に抽選でプレゼントいたします。
ご希望の方は、下記のフォームからお申し込みください。
そして是非、選ばれた3つのグラスで飲み比べてください。きっと生産者からのメッセージを受け取っていただけるはずです。

※プレゼント応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。

チーフ グラス・エデュケイター 庄司大輔

ワイナート

ワイナート

この記事は2015年6月5日(金)発売「ワイナート 第79号」に掲載されました。
こちらからPDFファイルをダウンロードしていただけます。
ワイナート PDF(801KB)

  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2001年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラス・エデュケイター」となる。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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