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2014/06/05

Column

【ワイナート連載後記】火山灰と秋田の風土が産む、今ぜひとも飲んでおきたいロゼワイン。

バーコードを消す、ということ

上の写真は、ワークショップ直前に撮影したものです。今回の取材を通して最も「ワイナリーの想い」を象徴する1枚だと感じ、一番最初にご紹介することにしました。

「これはひとつの儀式なんで・・・」と三ケ田さんがつぶやくように説明すると、おもむろに奥様がマジックでワインの裏ラベルに何か書こうとします。何をしているのか伺うと「どうも工業製品のイメージがあるので。ワインのラベルにバーコードが載っているのって違和感があるんですよ」と三ケ田氏。マジックでバーコードを塗りつぶすのです。

13桁の数字で製品を管理するバーコードは、工業製品の管理やトレーサビリティを考えるとたいへん有用なシステムです。
バーコードを塗りつぶしたとしても、それで風味が変わるわけでもありません。けれどもこのバーコードを塗りつぶすという「儀式」は、きっと飲み手の気持ちを変えてくれるのではないでしょうか。

「ワインは風土を反映する農産物である」という三ケ田さんのこだわり、哲学が垣間見えた思い出深いシーンでした。

ワイナリーこのはなを特徴づける土壌と気候

今回訪問したのは秋田県北東部、「きりたんぽ」発祥の地でもある鹿角花輪にある「ワイナリーこのはな」です。
約1000年前の十和田湖大噴火によって降り積もった火山灰土壌に根付いた「ワイングランド」「小公子」というヤマブドウ交配種から、秋田の風土を感じるワイン造りを目指しています。実はこの十和田湖大噴火では、通常東側(青森県側)に流れる火山灰が西側(秋田県側)に流れるという現象もあり、この地に大量の火山灰が堆積したのだそうです。自然の不思議ですね。

また、鹿角花輪のある地域は、ケッペンの気候区分では、北海道の多くの地域と同じ亜熱帯湿潤気候に区分されています。夏と冬の寒暖差が特徴です。
確かに香りには、グラスによってその濃淡はことなりますが、澄んだ透明感があり、それは口に含むとふわりと立ち上がります。
「鴇 ワイングランド ロゼ」には若干の残糖があるのですが、「峻烈」という語感とは異なるある種の優しさを含んだキリリとした酸が、口中前半で感じる甘みを最後に引き締めます。

ガレージワイナリーならぬ・・・文化ホールワイナリー

「ワイナリーこのはな」の醸造設備は鹿角花輪商店街の一角、廃業したパチンコ屋の跡地にあります。
写真からその雰囲気を感じられるかもしれませんが、うら寂しさを感じる平日昼下がりの鹿角花輪の商店街。

三ケ田さんの背中方向には八幡平が、正面方向には十和田湖があります。
2つの名勝地の中間に位置するこの商店街を訪れる観光客はとても少なく、日本の各地で増えてきている「シャッター商店街」になりかけている状況です。

上の写真、三ケ田さんの後方にある白い壁がパチンコ屋の跡地を利用してもうけられた醸造所。看板には「文化ホール」の文字が。
昔パチンコ屋をそう呼んでいたと聞いたことがあります。東京のパチンコ屋ではありません。思った以上に店内は狭かったのでしょう。醸造用の設備が所狭しと並んでいました。

瓶詰めも、コルク打ちも、ほとんどが手作業です。

そして「文化ホール」の手前側にあった銀行の跡地がワイン保管庫になっています。

ぼくも初めて銀行の金庫内に脚を踏み入れました。さすが、金庫に入っただけで気温がグッと下がります。これも分厚い内壁のおかげでしょうか。ワインの保管には最適かもしれません。
こちらには、記念すべきファーストビンテージのボトルが保管されています。

鴇 ワイングランド・ロゼ というワイン

ワイングランドはヤマブドウ交配品種です。「日本ワインを愛する会」ホームページでは下記のように書かれています。この説明だけをみても、寒さに強そうな印象ですね。

「澤登晴雄が作り出した交配種。帯広郊外に自生していた「中島1号」とモスクワから入手したヤマブドウの種を交配。さらにセイベル13053を掛け合わせた赤ワイン用品種」

見てください、この植生。

仮想飲み手は奥様

「この人なんですよ」と、あくまでも視線をぼくに向けながら(三ケ田さん、シャイなんです)、三ケ田さんは奥様のことを指差します。

「この人ね、お酒が飲めないんです(ほとんど)。で、この人を仮想の飲み手として少し残党を残したやや甘口に仕上げたんですよ。この人が美味しいと飲んでくれればぼくの勝ちなんです。ですから、今日のセッションではこの人の意見が大事かな・・・」と三ケ田氏。
そうそう、このほのかな甘みが、このワインの表情をガラッと変えています。
むしろ、この甘みがあるからこそ、この地ならではのふんわりした優しさとキリリとした酸がいきてくるのです。

「大本命」は選ばれなかった・・・

実は、最終の3種には選ばれませんでしたが、三ケ田さんがセッションの冒頭にふと手にした「<ヴィノム・エクストリーム> リースリング/ソーヴィニヨン・ブラン」で香りをとったときに漏れた言葉が「これは大本命かもしれん」。
いずれも「リースリング系」グラスの香りの評価は高かったのですが、少しすぼまりすぎていたのかもしれませんね。

最終的に選ばれたのは、写真手前から次の3タイプでした。

<ソムリエ> ロゼ(#4400/4
<ヴィノム> ヴィオニエ/シャルドネ(#6416/5
<ヴィノム> テンプラニーリョ(#6416/31

<ソムリエ> ロゼ

奥様の美香子さんがおされたグラス。「最初の香りの印象は非常に控えめだったけど、ワインを口に含んだときの果実味の印象がとても良かった。
香りとのコントラストもあって、口に含んだときの果実味がわき上がってくる感じ。そして酸味やミネラル感とのバランスもとてもいい」。
三ケ田さんも「グッと冷やして食前酒として飲むならこのグラスかな」とのコメント。
このグラスは1973年、ソムリエ発表の年からラインナップされているデザインです。そのためか、現在はむしろ「リースリング」タイプのグラスをロゼワインのファーストチョイスにお薦めすることが多いのですが、改めてこのグラスの持ち味を体感しました。

<ヴィノム> ヴィオニエ/シャルドネ

三ケ田さんが、ワインを作り、日々このワインに接する存在として、もっとも「落ち着いた」「普段通り」のワインのキャラクターを感じたと選んだグラス。すごくまとまり感があります。
三ケ田さんが日々感じているこのワインのイメージを感じたいときには、このグラスを選んでみてはいかがでしょうか。

<ヴィノム> テンプラニーリョ

「ワインがドレスを纏ったよう」という三ケ田さんのコメントが表すように、香りはグッと集約して、上記の2種類のグラスよりも1段階色合いが濃くなった印象の香りです。このグラスならではのすぼまりの強さ故でしょうか。
しっかりした味わいのお料理にも負けない華やかさと芯の強さが現れます。

グラスを眺めて・・・

「香り」だけで選んだときには「リースリング系」のグラスが好評価を得ていました。
ぼく自身も「大本命」の <ヴィノム・エクストリーム> がそのまま最後に残るのではないかと思った程です。
時にスターフルーツのような若干の柑橘を思わせるさわやかな香りもあり、フレッシュなイチゴ的な甘みのある印象もあり、もしも「香り最重視」で選ぶのなら、番外編として <ヴィノム エクストリーム> リースリング で楽しんで頂くのも一興かと思います。

ただ、味わいの点では、おそらくこのワインがもっているキリリとした酸味とミネラル感が、すぼまりの強すぎる形状を嫌ったのかもしれません。
舌の中央で感じる酸味などが強く出過ぎてしまうパターンです。そのため、最後に選ばれた3種類グラスには、舌の先端にはワインが触れない、という共通点が見られます。
舌の先端にファーストタッチがくることで、甲中後半での酸味や苦み・エグ味が浮き上がってしまうということもあるんです。

「秋田らしさ」についてのワイナリーの言葉・・・

最後に三ケ田さんが考える「秋田らしいワイン」についてお聞きしました。そのお答え、三ケ田さんの言葉をご紹介します・・・

私達は、「ワインを飲む」ということは「自然とそこに住む人々が醸し出す風土の文化を飲む」ということだと考えます。
その土地に合う葡萄を植え、手間暇を惜しまず育て、シンプルな醸造法でじっくり時間をかけてワインにする。秋田ワインとは、そんな「自然と人の調和」から醸し出されるワインなのです。

取材の最中、たびたび三ケ田さんの口からは、風土とその土地に住む人たちを思う言葉が聞かれました。
ワイナリー運営も、その活動によって、再び鹿角花輪に往事の活気を取り戻したいという思いが強く感じられました。
その為には、まずは、この地ならではの風土だからこそできるワインが必要なのだと。そのワインが認められることでこそ、シャッターが下りたままの空き店舗が目立つ「枯れ木」になりかけている商店街に、再び花を咲かせることができるのではないかと、思われているのではないかと感じました。

十和田大噴火の「火山灰土壌」に育つ「ワイングランド」「小公子」というブドウから作られるワインが、木々に花を咲かせる、花咲か爺さんの「灰」になれ。そう願います。

ワイナート

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この記事は2014年6月5日(木)発売「ワイナート 第75号」に掲載されました。
こちらからPDFファイルをダウンロードしていただけます。
ワイナート PDF(374.6KB)

  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2001年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラス・エデュケイター」となる。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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