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2013/04/02

Column

ワイナート記事の舞台裏(2)宮本武蔵とジョシュ・ジェンセンと川上善兵衛

最強のDNAと土壌の出会い、神が微笑みかけるピノ・ノワール
豪雪という過酷な条件が育む<等身大>のマスカット・ベーリーA

今宵は、吉川英治(井上雄彦?)を片手に、この両極端な2つのワインを飲み比べてみませんか?

マスカット・ベーリーA

なぜ宮本武蔵は「生涯無敗」を成し得たのでしょうか・・・

その答えのひとつに「彼は負ける可能性のある戦いをしなかったからだ」というものがあります。
確かに、勝てる相手だけと試合をしていれば、結果として「生涯無敗」も不可能ではありません。

「奇襲、奇策戦術が得意だった」という説もありますが、奇襲や奇策によって自分が勝てる環境を作り上げ、その上で試合に臨む・・・、という点では同じことと言えるでしょう。できるだけ自分が有利になる環境で戦うことは「勝負の鉄則」なのです。

「勝負の鉄則」をふまえて世界最高峰のピノ・ノワールを作った男


この「勝負の鉄則」に従って世界最高峰のピノ・ノワールを生み出した男がいます。
私は、岩の原葡萄園、そして川上善兵衛のことを考えるときに、いつもこのワイナリーを思い出します。
カレラ・・・そしてジョシュ・ジェンセン。

オーナーのジョシュ・ジェンセン氏

このワイナリーには沢山の逸話があります。
・ オーナーのジョシュ・ジェンセン氏は、D.R.C で栽培、デュジャックで醸造を学んだ
・ カリフォルニアで世界最高峰のピノ・ノワールを造るために開いたワイナリー
・ その苗木は、氏がロマネ・コンティから密かに持ち帰ったもの
・ 石灰質を含む土壌を探すためにNASAの人工衛星による資料を参考にした
・ そのとき発見されたのがマウント・ハーラン
・ 当時は電気も水道もない未開発の土地だった
・ ラベルのデザインは「石灰の焼き釜」

などなど
総じて言えることは、ジョシュ・ジェンセンは、世界最高峰のピノ・ノワールを栽培するために、考えうるあらゆる手段を使って最高の環境を整え、自分が勝てる土俵で勝負に出た、ということです。

「上越の土地ありき」でブドウ栽培・ワイン造りに挑んだ川上善兵衛とは、全くの正反対な取り組み方です。
ワイン造りという側面だけを考えたら、ジェンセン氏が王道、川上善兵衛は極めて少数派ということになります。

「もしも私がワイナリーを持つことができたとしたら、少なくともこの上越という土地は選ばないでしょう。あり得ません。」岩の原葡萄園 坂田社長の言葉です。偽らざる、正直な気持ちでしょう。 私もそう思います。

公共事業としての側面もあった、上越での雇用創出のためのワイン造り

川上善兵衛(68歳)

けれどもマスカット・ベーリー・Aの生みの親である川上善兵衛は、日本でも有数の豪雪地帯である新潟県上越市でのワイン造りに自分の人生をかけ、幾度となく失敗を繰り返し、「豪雪地帯でのブドウ栽培・ワイン造り」という壮絶な、冷静にみれば「敗戦を覚悟」しての挑戦をし続けたのです。

小高い丘から見渡す限りの土地を所有し「川上家の土地を通らずに日本海まで至ることはできない・・・」とまで言われた大地主だった彼は、その私財のほとんどをワイン造りになげうち、晩年にはそのほとんどを失い、決して恵まれたとは言えない経済状態でこの世を去りました。

彼方に日本海を望む、ブドウ畑と上越の田園風景。かつてはこの殆どが川上家の敷地だった。

なぜ、川上善兵衛は豪雪で有名な上越という土地にこだわり続けたのでしょうか?

そこには、豪雪という過酷な気象条件のもと、不安定な収穫に苦しむ地元の農民達を救いたいという思いがあったのです。
田畑をつぶすことなく、やせた土地でも栽培可能なブドウ栽培によって、少しでも農家の生活が安定すれば・・・。

川上善兵衛にとって、ブドウ造り、ワイン造りは、あくまで手段でしかなかったのかもしれません。
上越の人々の生活を支えるために、そして人々の笑顔のために、善兵衛は、その生涯をかけた「負け戦」に挑み続けました。

川上善兵衛の思いは、度重なる品種改良によって生み出された川上品種や、現代の岩の原葡萄園のスタッフ達による栽培、醸造への取り組みに、確実に受け継がれています。

本来地上2~2.5m程にある葡萄樹の枝も、膝辺りの高さに。豪雪地ならではの風景

選果中でしょうか。上村技師長(写真左)

石蔵を覆い隠すかのような豪雪

雪の重みでブドウ樹が倒れないようワイヤーの補修

そして「負け戦」へ挑んだ川上善兵衛の戦いが決して「負け戦」で終わらなかったことを感じたのは、2010年岩の原葡萄園を訪れ、分厚いアジフライとともにマスカット・ベーリーAを楽しんだときでした。

マスカット・ベーリーAとアジフライの組み合わせは絶品でした

ここにこそ、このワインの居場所があるではないか。
厚化粧をしない、素材そのままの <等身大> なこのワインが、アジのうま味を高温の油でさっと揚げて衣で閉じ込めたこの素朴な料理に、これ以上無いほどにマッチしたのです。

吉川英治の「宮本武蔵」
井上雄彦の「バガボンド」
どちらの作品も大好きなのですが、私のKindleに納められた愛読書は、「池波正太郎」なのです。

もしも、長谷川平蔵がこのアジフライとマスカット・ベーリーAのペアリングを味わったら、きっとこう言うに違いありません。

「こりゃ うめぇな 爺っつぁん」

次回最終稿は、改めて3種類のグラスで <岩の原葡萄園のマスカット・ベーリーA> をテイスティング。
それぞれのグラスからどんな表情が感じられるか、その模様をお伝えします。お楽しみに。

  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2001年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラス・エデュケイター」となる。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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