傑作ワインが生まれる条件とは? ワインの「当たり年」について

傑作ワインが生まれる条件とは? ワインの「当たり年」について2017.08.29 UPDATE

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ワインの評価でしばしば、「今年は当たり年でした……」などというフレーズを耳にします。

同じ造り手が造った、同じクラスのワインでも、ヴィンテージによって評価が大きく異なることもしばしば。

そもそも「当たり年」とは、どういう年を指すのでしょうか?

「当たり年」条件について、考えてみましょう。

ワインの「当たり年」の条件とは?

簡単にいえば、ワインの原料となるぶどうが健やかに育った年が「当たり年」。

健やかに育ったぶどうからは、芳醇なワインが生まれます。

ぶどうが健やかに育まれる気候条件とは?

重要気候条件その1 日照
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ぶどうは、結実してから収穫されるまで、およそ100日を要します。栽培地や標高によってもさまざまですが、北半球では4月から9月くらいまでのうち100日間がぶどう果実の生育期間で、この間に充分な日照があった年は、「当たり年」の条件をひとつ満たすことになります。反対に雨や曇りの多い年は、ぶどうが充分に完熟しないため、当たり年とはなりにくい、というわけです。

品種や栽培条件によって多少の変動はありますが、ぶどうは1250〜1500時間ほどの日照を得ると完熟します。ワインは、酵母がぶどうの糖分をアルコールと二酸化炭素に分解することで醸造されます。したがってワインの醸造には、ぶどうに充分な糖分があることが必須なのです。

とはいえ、お天気が良ければそれでいい、というわけでもありません。

お天気が良すぎて果実に直射日光が当たり過ぎると、ぶどうは「焼け」て、繊細なニュアンスが失われてしまいます。このため、夏場に暑くなり得る産地では、あえてぶどうの上部に葉を残して日陰をつくるように配慮したりしています。

また、温か過ぎるため夜間になっても気温が下がらない「熱帯夜」も、ワイン用ぶどうには好ましくありません。

ぶどうは、昼間の日照で糖分を蓄え、夜間の冷え込みで酸を蓄えるという習性をもっています。ことにワイン用ぶどうには酸が重要で、醸した際に酸が足りないと、ぺったりと平板な印象のワインとなってしまうのです。

そもそも、ワインの名産地とされる土地は、気候的特徴として昼夜寒暖差の大きなところばかりなのですが、近年の温暖化の影響などにより、夜間になっても気温が下がらないというケースも起こり得るようになってきました。

重要気候条件その2 降雨量と降雨時期
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ぶどうはそもそも、多量の水分を必要としない植物です。

ぶどうに好ましい降雨量は、年間500〜800ミリ程度。比較的雨の少ない場所が、望ましいテロワールといえるでしょう。したがって、雨の多過ぎる年は、望ましいヴィンテージとはいえません。

雨が多すぎると、蔓や葉が繁茂しすぎ、肝心の果実にまで栄養がまわらなくなったり、果実が水っぽくなったりします。

ことに、収穫時期に雨が降ると、ワインが水っぽくなってしまうため、秋に雨の時期をむかえるヨーロッパにおいては、長雨の兆しがあると、果実が完熟する前に収穫してしまうケースも少なくありません。ところが皮肉なもので、降りそうだった雨がさほど降らないこともあり得ます。そうした場合は、急いで収穫しなかった造り手は完熟果実でワインを造ることができるというわけです。もちろん、逆もまた真なり。雨の兆しを見逃した造り手は、その年は水っぽいぶどうでワインを造らざるを得ません。同じ産地で、同じヴィンテージに造られたワインであっても、造り手によって当たりはずれの違いが出るのはこのためです。

重要気候条件その3 霜
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近年、ヨーロッパのワイン産地で大きな問題となっているのが霜害です。

ぶどうの樹は、冬場の霜には比較的強いのですが、春に新芽が芽吹いた後、遅霜が降りるとその被害は甚大です。今年の新芽が霜にやられてしまうため、生産量が激減してしまうのです。

ことに最近では、温暖化のために新芽の芽吹きが早くなる傾向にあり、そこに遅い霜が降りて台無しにしてしまうケースが多くなってきています。

むしろ「はずれ年」のワインはお得

こうした、気候条件による「当たり年」という概念は、フランスを中心に発達したものです。

比較的寒冷な気候で、秋には雨が多いという気候条件のゆえ、といえるでしょう。その反面、造り手の裁量によって「はずれ年」のピンチを切り抜けることも多少はできたため、職人としての誇りも形成されたというわけです。

ことにフランスの中でも寒冷なシャンパーニュ地方では、完熟しきらないうちに収穫せざるを得ない状況を逆手にとって、複数のヴィンテージをまたいでアッサンブラージュ(ブレンド)してクオリティの統一を図り、瓶内二次発酵という醸造手法を編み出し、比類ないシャンパーニュという飲み物が生み出されました。

また一方でフランスは、近代的なワインの国際市場がいちはやく形成された土地でもあります。ワインを扱うネゴシアンたちは、当たり年のワインはいうまでもありませんが、むしろそうでない年のワインを注意深く見守り、果実の熟成が足りないヴィンテージのワインは、ボトルの状態で飲み頃の熟成に達するまで寝かせ、あるいは早めの飲み頃時期を産出し、最良の状態で市場へと流通させたのです。

したがって「はずれ年のワインだから美味しくない」ということでは、決してありません。むしろ、当たり年であるがゆえに「最高の熟成状態に達するまで40年かかる」などというワインに比べ、比較的早めに飲み頃になり、価格も安いというお値ごろワインであったりするわけです。

「当たり年」「はずれ年」の無い国も

ヴィンテージによって気候条件が大きく変わり得るヨーロッパに比べ、ニューワールドは比較的気候的に安定した地域といえるでしょう。ニューワールドワインが世界中で親しまれているのも、品質の安定による安心感が大きく影響しているものと考えられます。

ことにチリやアルゼンチンなどの産地は、ヴィンテージによる気候の変化がほとんどない地域。ゆえに、「当たり年という概念も、あまりないですよね?」と、以前アルゼンチンの生産者の方に訊いてみたことがありました。

すると彼は「いいや、そんなことはない」というのです。「ずっと昔だけど、夏場に雹が降ってぶどうが台無しになったことがあるよ」と。

「その後、畑全体をカバーできる雹除けシートを用意するようになったのさ」——なるほど、備えあれば憂いなし。ワインを造る職人魂は、旧大陸もニューワールドも変わらないのかもしれません。

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  • 髙山 宗東
  • muneharutakayama

ワインコラムニスト・歴史家・考証家・有職点前(中世風茶礼)家元


専門は近世史と有職故実。歴史的観点を踏まえてワインのコラムなどを執筆。

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