実は日本酒もデカンタージュしていた デカンタージュの東西比較文化

実は日本酒もデカンタージュしていた デカンタージュの東西比較文化2017.09.08 UPDATE

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澱を取り除いたり、ワインのポテンシャルを開かせたり……と、さまざまな効果があるデカンタージュ。「ものすごく高価なワイン」や「古いヴィンテージのワイン」にだけするというイメージがあるかもしれませんが、実は毎日の食卓で楽しむ気軽なワインも、デカンタージュすることで、ポテンシャルが開きます。

食卓に彩りを添えるデカンタの歴史

古代以来、ワインは甕や樽で醸造され、保存されてきました。そうした時代、ワインを食卓に饗する場合は、水差しなどに入れられていました。

保存設備も整っていなかった当時のこと、甕や樽から水差しに移す際には必然的に、澱や塵などが取り除かれたことでしょう。

そう考えると、ワインボトルが普及する以前のワインは、すべてデカンタージュされていた——ともいえるのです。

デカンタのさまざまな魅力

ワインボトルの登場がデカンタの位置づけを変えた

現代のようなガラス製のワインボトルが普及しはじめたのは17世紀頃。

丈夫で、持ち運びしやすく、保存にも便利。そのままテーブルの上にのぼらせることもできるワインボトルは、瞬く間にワイン容器のスタンダードになりました。

しかし、贅を凝らした貴族やブルジョワの正餐においては、「ワインボトルをそのまま食卓にのぼらせるのはエレガントではない」という理由から、相変わらずワインは水差し……いえ、ワイン専用のデカンタに移されて、食卓に饗せられていたのです。

また、彼らの飲むワインはしかるべき熟成を経たヴィンテージワインであることが多かったため、空気と触れ合わせて眠りから解き放ち、またボトルの底に溜まった澱を除去する必要があったわけです。

現代の私たちがイメージする「デカンタージュ=高級」というイメージは、この頃の習慣に由来するもの、といえるでしょう。

どんなワインにもデカンタージュの効果が

しかしデカンタージュは、高級ワインにのみ許された特権ではありません。

普段の食卓で楽しむ日常消費ワイン——たとえば、ボトル1000円ほどのニューワールドワインであっても、デカンタージュをすると思わぬ効果があらわれます。

ワインは空気と触れ合うと、内に秘めているさまざまなポテンシャルを開花させます。「開く」などといいますが、潜んでいるアロマが次々と花開き、秘めた個性を雄弁に語りはじめるのです。もちろん、高級ワインと日常消費ワインでは、その個性は異なりますが、元気に自己紹介をはじめることに値段の上下はありません。

白ワインでも同じことがいえます。「繊細な白ワインをデカンタージュすると、酸化してしまうのでは?」などという意見もありますが、特にニューワールドの白ワインは、完熟したぶどうを使用しているため、一夜の食事を楽しむ程度の時間で酸化してしまうことはまず、ありません。むしろ、デカンタージュすることで思いもよらない風味が出てきて、「おやっ?」と見直すようなこともしばしばです。

実は昔の日本酒も、事実上デカンタージュしていた
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このデカンタージュ、ワインばかりではありません。日本酒にも、おすすめです。

たとえば四合瓶の日本酒をデカンタージュすると、これまた秘められたポテンシャルが開花し、雄弁に語りはじめます。

実は日本酒は、その昔は、事実上多くがデカンタージュをしたうえで食卓に饗されていたのです。

日本酒というと、信楽焼の狸が提げている陶製の徳利や、ガラスの一升瓶のイメージがあるかもしれません。陶製の提げ徳利は江戸初期から、ガラスの一升瓶は明治時代の中頃から一般的になりましたが、江戸〜昭和の初期まで、ちょっと大きな家では、台所の片隅に、木製の四斗樽や二斗樽が据えられていたものです。

樽の日本酒は今でも鏡開きなどで使われるので、ご存知の方も多いかと思います。四斗というと、およそ72ℓですから、なかなか大きな木樽です。

こうした樽を購入するような家では、お酒は、まず樽から片口に移し、片口から徳利やお銚子、ちろりといった酒器に移されて、常温なり、燗をつけるなりして食膳にあげられました。

その間お酒は、容器を移し替えられるごとに空気とふれ合うわけですから、食膳でいただく際にはすっかりポテンシャルが「開く」ことになります。

つまり、巧い具合にデカンタージュの効果があらわれた状態で飲まれていた——ということになります。

空間を演出するアイテム

レストランで、ソムリエさんが見せてくれるデカンタージュ・サービスには、香りや味わいを引き立たせるだけではなく、エンターテインメントとしての視覚効果もあります。

リーデルは、グラスメーカーとして知られていますが、実は60種類以上のデカンタを発表してきている、世界屈指のデカンタメーカーでもあります。

たとえばエデンの園のヘビをモティーフとした『イヴ』のラインは、型を使わない「宙吹き」の技を持つ数名のマイスターの手業から生み出されます。同じかたちのものは世界にふたつとない、というのが最大の魅力です。

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また、ブラック・タイシリーズの『ブリス』にも、注がれたワインの中にハートが浮かびあがる、ハンドメイドならでは技が光ります。

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味わいや香りを開かせるばかりではなく、その食卓、その空間を演出する効果があるデカンタ。実は汎用性がとても高いワインアイテムなのです。

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  • 髙山 宗東
  • muneharutakayama

ワインコラムニスト・歴史家・考証家・有職点前(中世風茶礼)家元


専門は近世史と有職故実。歴史的観点を踏まえてワインのコラムなどを執筆。

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