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2018/06/07

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よみがえった『純米』グラスプロジェクト【開発秘話3】

純米酒をとりまく環境の変化

2011年に一度は頓挫してしまった『純米』グラス開発プロジェクトですが、時をおいて、ふたたび復活の兆しが見えはじめます。

2015年ごろからでしょうか、それまで、まるでワインのようにフルーティーな香りがもてはやされていた大吟醸酒だけでなく、米の旨味を表現した純米酒への注目度が、グンと増してきたのです。

世界の状況も変化してきました。フランスでおこなわれる、フランス人による、フランス人のための日本酒コンクール「クラマスター」が開催されはじめたのが、2017年のこと。
この背景には、「フレンチに代表される欧米の料理そのものが変わってきた」ということがあります。
世界が和食に注目したように、美食の主流は、それまでの「濃厚な味わい」から、「素材感を活かしたライトな味わい」に変わってきました。

このため、マリアージュさせるお酒も、「濃厚で、酸やタンニンもしたたかなワイン」から、「ライトで、すっきりとした、穏やかな味わいのワイン」へと、好みが変わってきたのです。
こうした流れを受けて、酸度が低く、米のおだやかな旨味がある日本酒――中でも、米の素材感を活かした純米酒が、フレンチやイタリアンに入り込む余地が出てきたのです。

また、日本酒業界そのものも、変わってきました。
たとえば、酵母。6号、7号、9号といった、派手ではないけれど、しっかりと発酵するタイプの酵母を用いた純米酒が多く造られるようになってきました。
造りも、生酛や山廃など、伝統的な日本酒の醸造方法が見直されるようになり、さらに、醸造技術にも著しい変化がみられるようになりました。

原料となる米を削る理由のひとつは、米粒の表面に近いところから雑味が出てしまうから。逆にいうと、この部分に旨味や個性が含まれています。
したがって、雑味が出にくい造りをすることができれば、磨きすぎない方が、米の旨味を巧く表現することができる――と、いうことになります。
醸造技術の向上により、雑味を抑制する丁寧な造りができるようになった。こうして造られたタイプの純米酒は、「長く飲み続けられる究極の食中酒」という、マーケットニーズにも充分に応えられるものでした。

こうした背景を得て、私たちも、「純米酒」をどのように絞り込んでいけばよいのかが、少しずつ見えてきました。
ターゲットは「柔らかくも奥深く上質なうまみ」なのだと。「どんなカテゴリーの酒なのか」ではなく、多様性に富んださまざまな純米酒に共通する米のうまみこそ、縦長の卵型という形状である『大吟醸』グラスではむしろ感じにくかったもの。次に開発される日本酒グラスで絶対に追い求められるべきターゲットだと。それは、「生酛・山廃造りのお酒に象徴されるような複雑な酸味が、上質な米の旨味を支えているタイプの酒」であったり、「コメを磨かず、精米歩合70%を超えるような造りで、米本来のうまみを秘めているお酒」などが代表的なお酒でしょう。
こうして「純米酒」の方向性を絞り込むことができはじめたのが、2016、17年ごろのことです。

見えてきた目標

私たちは、2010年以来、幅広いスタイルを包括する純米酒の迷宮をさまよっていました。しかし、ようやく気づいたのです。
「純米酒カテゴリーに対応した万能のグラスが作りたいわけではない。見た目の小粋さでもなく、扱いやすさでもなく、ただただ日本酒のもつ奥深い味わい、うまみをストレートに感じることのできるグラスが作りたかった」のだ――ということに。

『純米』グラス最大の特徴は、日本酒の「柔らかくも奥深い上質なうまみ」の部分にスポットがあたる形状であると言えます。
面白いことに、たとえ香り高い純米大吟醸酒であっても、このグラスで飲むと、「香り」よりも「旨味」にスポットがあたります。あとは、皆さんが、目の前にあるそのお酒をどう楽しみたいのか、これによって使う酒器を選んでいただく。そんな楽しみも、日本酒エンジョイメントのひとつの要素として加えて頂けたらと思います。

つまり、整理すると、
「このグラスで日本酒を飲むと、お酒のもつ香り、味わい、質感などさまざまな要素の中でも、ことに「米のうまみ」が、ダイレクトに飲み手の感覚に訴えかけてくる」

「その特徴を、より明瞭に感じることができる日本酒が純米酒。その中でも生酛・山廃、低精白(あまり米を磨かない)のお酒などに、より適したものが多い」と、いう順番になります。

 

『純米』グラスがめざすもの

私たちは、この『純米』グラスが、「すべての純米酒に合うグラスだ」などというつもりはありません。
もちろん、「純米酒」という幅広い括りの中では、合わないアイテムもあるに違いありません。
しかし、このグラスは、「米のうまみ」を表現しようとした造り手の想いが、ダイレクトに感じられる形状をもっています。そして、そういうお酒の多くが、現在「純米酒」のカテゴリーに入っています。

試してみて、もし合わなかった場合でも、どうか1度で判断せずに、2度、3度と、さまざまな純米酒で試してみていただきたい、というのが、私たちの切なる願いです。
このグラスにフィットする純米酒であれば、最良の状態で「米のうまみ」を感じていただけるはずです。

 

日本酒の世界を広げるアイコンになりたい

ところで、このグラスには、ちょっとしたエピソードがあります。
当初『純米』グラスは、日本市場、特に和食の料理店に合わせてOシリーズのような、脚の無いデザインを予定していました。
しかし、ボウルの形状が決定したところ、径があまりに大きかったため、バランスをとるために、短い脚がつけられることになりました。
しかし、ある時突然、ゲオルグ・リーデルに天啓があったそうです。

フレンチやイタリアンなどの高級レストランで、誰かがこのグラスで日本酒を飲んでいたとしたら、ステムレスだったり、脚がとても短かったら目立たない。この素晴らしい日本の酒は、ブルゴーニュのワインと同じ位置で肩を並べるべきではないか。

ただ、このグラスのボウルが、ジュヴレイ・シャンベルタンと同じ高さにあったとしたら、新たに入って来たお客はソムリエにこう訪ねるかもしれない。「何故あのテーブルの方々は、肉料理にマティーニを飲んでいるの?」と。
そして、ソムリエはこう答えるんだ。「お客様。実はあれはマティーニではないんです。日本の米だけから造られたピュア・ライスワインと専用に開発されたグラスなんですよ。お試しになってみませんか?」このグラスが高い脚をもてば、レストランの中で、遠くからでも見えるアイコンになり得る。純米酒が世界で認められる、良いきっかけになるはずだ――と。

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  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2000年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラスエデュケイター」となる。演劇で磨いた肉体表現と、静かな語り口から垣間見える渋いユーモアに定評があり、ファン多数。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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