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2018/12/14

Wine

ワインの熟成と香りの変化

多くのワインは買ってすぐに楽しめる

「熟成」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか。
妖艶な美女、実りの秋、もしくは熟成牛でしょうか? ワインも環境が整うと、魅惑の熟成を果たします。

美しく変貌を遂げた一滴を口にすると、その魅力に取りつかれてしまう熟成ワイン。ただし、すべてのワインが華麗に発展するわけでもなければ、同じワインでも環境が異なると同じように熟するとも限りません。どのように変わるのか?考えながらその時を待つ。ワイン愛好家の大きな楽しみのひとつでもあります。

ショップで見かけるワインの多くは、買ってすぐに楽しめるように造られています。長くても3〜5年程度の保管を想定されています。フレッシュなフルーティーさを楽しむ赤・白ワインやロゼはもちろんのこと、スパークリングワインも同様です。

シャンパーニュのような瓶内二次発酵を経ているものですら一般的なものは「一番の飲み頃は澱抜きの後、半年から1 年位、この期間が一番おいしく楽しめる。」と醸造責任者たちが言うほどです。 (上級のスパークリングワインの中には澱抜きまでの瓶熟 に10 年以上の年月を費やし、出荷前に澱抜きをしてリリースされることもあります。)

熟成向きのワインとは?

どのようなワインが長期熟成に耐えうる、熟成させる価値があるのでしょうか。 一言でいうと『品質が高く酸味とタンニン(赤ワイン)と凝縮感を兼ね備えているワイン』 です。

熟成に耐えうると称されるワインの多くは、最上級に格付けされる畑から厳選した高品質のブドウを用い、手間暇をかけて醸造作業を行ったもので、時を経ることを 前提として販売されます。

フランス、ブルゴーニュのグランクリュや、ボルドーの格付けシャトー、カリフォルニアの有名生産者の上級ワイン、またドイツ・アルザス・オーストリアの遅摘みリースリングやロ ワールのシュナンブラン(甘口ワインも含む)など、熟成向きのワインを上げ始めたらキリはありません。

スペインのリオハ・グランレゼルヴァや、イタリアのバローロなど、原産地呼称で 法定熟成年数が定められており、一定の熟成期間を過ごした後、市場に出されるワインも存在します。いずれも各ワイナリーのトップキュヴェ(ワイナリーを代表とす る最高品質のワイン)がそういったワインへと運命づけられます。

熟成することで何が変化するのか?

熟成を経ることによりワインの何が大きく変化するのでしょうか。 ワインの色調や口当たり、タンニンの質感も変わりますが、一番わかりやすいのは『香りの要素』です。

ワインの香りは、大きく3つに分類されます。
第一アロマ:ブドウ由来の香り
第二アロマ:醸造過程で生成される香り
第三アロマ:熟成過程で発する香り(ブーケ)

熟成過程も、2つに分けることができます。
1.樽など空気に触れる環境での酸化熟成
2.瓶内で空気にほとんど触れない還元熟成

この 2 種類に加え、
3.果実由来のアロマが熟成により発達する果実味
上記 3 つをブーケと総称します。

デイリーワインで若いうちに飲まれるワイン(ボージョレーヌー ボーや、イタリアの軽くシンプルなピノグリージョなど)は第一アロマ主体です。醸造技術 (MLF や澱引きなし、樽を用いた発酵など)によっては第二アロマを同時に感じ取れます。

日常的なワインでも、出荷前に樽や瓶で一定期間熟成されているとブーケを感じることもありますが、香りの主体は第一アロマとなり、比較的若いワインであると判断できます。

樽熟(酸化熟成)由来の第三アロマとしては、コーヒーやチョコレート、キャラメル、ヘー ゼルナッツやクルミなどのローストしたナッツ類。
瓶熟(還元的熟成)由来は、白ワインにははちみつや蜜ろう、白い生のマッシュルーム、し ょうがやナツメグ、トーストのようなニュアンス。赤ワインには皮革、トリュフ、濡れた 落ち葉や森の下草、土のニュアンスや、ジビエやお肉、タバコやシガーなどが代表的です。

果実由来のアロマは熟成する過程で、フレッシュフルーツが完熟フルーツに、さらに時を経るにつれ、調理や乾燥したフルーツの凝縮した香りや味わいに変化をしていきます。

バナナで例えるなら、最初は青いバナナも時をへると黄色く色づきます。さらに熟すと皮が黒くなり、部屋中に甘い香りが広がります。皮をむくと実は熟し、とても甘くなっています。甘くなったバナナでパウンドケーキを焼いたり、煮詰めてジャムにしたり・・・。熟す過程で香りが変化し、凝縮していく様子を思い描くことができるのではないでしょうか。

アロマの変化は、ブドウ品種、生産地の気候・土壌といったテロワール、 ヴィンテージ、醸造方法、熟成環境など、様々な要因が絡み合い生み出されるため、いつも同じように変化するとは限りません。共通するのは、時間が経過するほど、 第一、第二アロマの印象は減少し、第三アロマが支配的になっていくということで す。

熟成の目安

ワインをテイスティングすると、頭の中に第一印象が映像化されます。若い第 一アロマ主体のワインは5月の新緑(白ワイン)、もしくは赤〜紫系の花のつぼみ (赤ワイン)のイメージが浮かびます。第三アロマが増えると木々が色づいたり、はらは らと落葉したり、大輪の花を咲かせたり、花びらが散り始めたりする風景が展開されます。私にとっては、これが熟成度合いを測る目安となっています。

それでもピークの見極めは難しく、慣れるまでは専門家の意見を参考に様々なワインを試して、経験の引き出しを少しずつ蓄積していくしかありません。開栓してみないとわからないことも多く、そろそろかな?と思っていても、 まだまだだったり、反対にピークを過ぎていたり、見極めが難しいのも熟成の醍醐味です。

ピークぴったり!のワインに出会えた時には、素晴らしいハーモニーを奏で、両手いっぱいの花束を渡されたような喜びを感じます。この第三アロマを「ブーケ(花束)と呼ぶのだ!」と、熟成に関して学んでいるときに納得しました。

偉大な、長期熟成に耐えうるワインは時として 、10 年 20 年の熟成期間が必要で す。若いうちから可能性があることは理解できるものの、修業 が必要と感じることもあります。人間と同じで、魅力や潜在能力の高さを感じられるものの、大成するには下積みと努力が必要。環境を整え、忍耐強く待たねばなりません。成長した暁には、円熟味や人間性に深みが増し、才能が花開く。ただひとつ、ワインと人間の違いはワインのピークには限りがある。ということでしょうか。

ワインの熟成を楽しもう

初めから上級ワインに手を出すのは難しいかもしれません。 まずは少し熟成したのち出荷されている同銘柄のヴィンテージ違いを、同時に 3〜4種類ほど試してみるところから始めてみるのはいかがでしょうか。

必ずしも古いヴィンテージのワインに多くのブ ーケを感じるとは限りません。その年の気候などの条件も相まって、このワインの方が若いはずなのにすでにブーケが!といったこともあります。皆で集まってどのワインが一番年月を経ているのか?ブラインドで意見を交わしあいながら楽しむと、ワインの新たな世界が広がるかもしれません。

  • 猪飼圭子Ikai

2000年よりアジア系・ヨーロッパ系航空会社に在籍。乗務のかたわら2005年よりヨーロッパ各地のワイナリー訪問やセミナー参加、資格試験の勉強を通し、肌でその時々の状況を感じつつ知識と経験を積み重ねる。2011年シニアソムリエ、2015年WSETディプロマおよびワインアカデミカー資格取得。 2015年よりワイナリー同行通訳、ワイン資格試験関連の教育に携わる。
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